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加齢黄斑変性は自己チェックで早期発見
情報誌けあ・ふるVOL.91(2017/4) 掲載

東京女子医科大学
眼科学教室 教授

飯田知弘先生

ゆがんで見える、見えにくいは危険信号

「ものがゆがんで見える」「見たいところが欠ける」—こんな症状があったら加齢黄斑変性かもしれません。加齢によって視力の中心となっている目の黄斑という部分に支障が起こる病気で、50歳代以上の世代で増加しています。気付かぬうちに病気が進行していることも多く、放置すると失明する恐れもあります。治療法の進歩により、最近では、早く異常に気づき、適切な治療を受ければ治せるようになりました。加齢黄斑変性の特徴と、早期発見のためのチェック法、予防対策などについて、東京女子医科大学眼科学教室教授の飯田知弘先生にお聞きしました。

ものがゆがんで見える

目の構造をカメラに例えると、角膜と水晶体がレンズで網膜がフィルムに相当します。そして、網膜のほぼ中央にあるのが「黄斑」という部位です(図1)。黄斑は視細胞が密集した直径1・5㎜ほどの組織で、ものを見る機能が集まっています。文字を読んだり、細かなものを見て識別しているのは網膜の中でもこの部分です。色を識別する細胞も大半がこの部分にあります。“視覚の中枢”といえる重要な部位で、ここに支障が生じると急速に視力が低下します。
「加齢黄斑変性は、この黄斑が加齢などによって損傷される病気です。黄斑が傷つくと、見ようとしたものがゆがんで見えたり、視力が低下してぼやけたり、視野の中心が黒く欠けたりします。さらに進行すると、文字が読めなくなったり、人の顔を見分けるのが困難になるなど、日常生活に悪影響を及ぼすようになります」(飯田先生)。
この病気は、欧米では成人の中途失明の原因のトップを占めています。日本では比較的少ない病気だったのですが、近年は増加の一途をたどっており、日本でも視覚障害の原因の第4位となっています。最近の調査によれば、50歳代以上の人の1・7%、約60人に1人が加齢黄斑変性にかかっていると推定されています。

放置しておくと失明の恐れも

加齢黄斑変性の特徴の一つは、片目ずつ進行することです。一方の目に異常があっても、もう一方の健康な目が見え方をカバーするので、発症しても最初のうちは病気の進行を自覚しない方が少なくありません。これが早期発見を難しくしています。しかし、そのまま放置しておくと、視力が急激に低下し、遠近感も失われます。さらに進むと、最悪の場合、失明に至ることもあります。
「ものが見えにくくなったり、ぼやけたりしても、多くの人は、年のせい、老眼のためと片づけてしまいがちです。しかし、加齢黄斑変性では、それが重大な結果を招きかねません。50歳代以上で、少しでも目に違和感があったら、必ず眼科で検査を受けるようにして下さい。それが早期発見、適切な治療につながります」と飯田先生は注意を促します。
なお、加齢黄斑変性には、「滲出型」と「萎縮型」の2つのタイプがあります。滲出型は、網膜の外側にある脈絡膜から新生血管という異常な血管が網膜側に伸び、そこに含まれる水分が漏れたり、出血したりして黄斑を傷つけます(図2)。萎縮型は、黄斑部の網膜の組織が徐々に萎縮して視力が低下していきます。日本人の場合、約90%以上が滲出型です。飯田先生によると、萎縮型は進行がゆっくりですが、滲出型は視力の低下が急速に進むので、特に注意が必要だといいます。

アムスラーチャートで自己チェックを

加齢黄斑変性を自己チェックする方法として、碁盤のようなマス目が描かれたシート(アムスラーチャート)を用いる検査があります(図3)。約30㎝離れた位置から、片目でこのチャートの中心の点を見て、すべての線がまっすぐ見えているか、マス目の欠けている部分はないか、暗く見えたりするところはないかなどを調べます。ふだん使用している眼鏡やコンタクトレンズはつけたまま、左右の目それぞれで行います。
飯田先生は「アムスラーチャートを使う検査は簡単なので、自宅でもできます。定期的にチェックして、もしゆがんで見えたり、中心部が暗く欠けて見えるなど、見え方に異常があれば、早めに眼科を受診して精密検査を受けるように」と勧めます。
眼科では、アムスラーチャートに加えて、視力検査や眼底検査などを行います。また、網膜の断面を撮影する光干渉断層計(OCT)という最新の装置では、網膜のむくみや剥離、新生血管の有無などもわかるようになっています。

抗VEGF薬で視力の回復も可能に

加齢黄斑変性で早期診断の重要性が指摘されるのは、最近、治療法が大きく進歩し、初期のうちに対処すれば、視力の改善も可能になってきたからです。その主役となっているのが「抗VEGF薬」を眼球に注射する方法です。
加齢により網膜とその外側にある脈絡膜との間に老廃物が溜まり、炎症を起こします。すると、加齢黄斑変性のうち、日本人に多い滲出型ではVEGF(血管内皮増殖因子)というタンパク質が分泌され、新生血管が生えてきて黄斑にダメージを与えます。
この、悪さをするVEGFの働きを抑えるのが抗VEGF薬です。眼球内の硝子体に直接注射することで、新生血管が発生したり、成長するのを阻害します。初めは、月1回の治療を3回行います。ある程度時間がたつと効果が落ちるため、継続的な治療が必要です。
抗VEGF薬の最大のメリットは、治療を続けると、黄斑変性の進行を止めるだけでなく視力の改善が期待できることです。飯田先生は「抗VEGF薬療法はこれまでにない画期的な治療法です。始めるのは早ければ早いほど効果が高いので、早期発見がとても重要」と強調します。
また、加齢黄斑変性では「光線力学的療法(PDT)」という治療法も行われています。これは光に反応する薬剤を静脈注射した後に、病変部にレーザーを照射する治療法です。この薬剤は新生血管に集中的に集まる性質を持つため、そこへレーザーを当てると薬剤が活性化して新生血管を退縮させます。視力の低下を抑える効果があります。さらに最近では、このPDTと抗VEGF薬とを組み合わせた併用治療の研究も進められています。

生活習慣の改善で予防を

ところで、加齢黄斑変性は、加齢が大きな要因ですが、一方で、生活習慣も密接に関係しています(表)。
特にリスクが高いのは喫煙です。タバコを吸うと、血液中にある酸化ストレスを抑える物質が壊されます。その結果、酸化ストレスが高まり、加齢黄斑変性の原因の一つとなる炎症を引き起こすと考えられています。予防のためにも、症状を進展させないためにも禁煙が欠かせません。
また、高脂肪食の摂りすぎやそれに伴う肥満も危険因子です。栄養バランスのとれた食事、適度な運動を心がけましょう。
さらに、太陽光の強い光が当たると黄斑が傷つくともいわれていますから、夏場などは外出時、サングラスを使うようにします。
加齢黄斑変性を予防する栄養成分としては、ルティン、抗酸化ビタミン(C、E)、亜鉛、銅などがあります。米国人を対象とした研究では、これらの栄養成分が病気の進行を抑えることが明らかにされています。食事から摂取するのが理想的ですが、難しい場合はサプリメントを利用することもできます。
飯田先生は「加齢黄斑変性は、年をとると誰にでも起こる可能性があります。生活習慣の改善によって、リスクを少しでも取り除き、予防に努めてほしい」と話しています。

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