知る・学ぶ

医療・介護トピックス

医療
糖尿病足病変の原因と対策
情報誌けあ・ふるVOL.89(2016/10) 掲載

杏林大学医学部 形成外科教授
医学教統轄センター教授

大浦 紀彦先生

毎日のフットケアで早期発見を

 糖尿病をきちんと治療せず高血糖状態が長く続くと、様々な合併症が起こってきます。「足病変」もその1つです。放置しておくと、足に潰瘍(かいよう)ができたり、組織が死んでしまう壊疽(えそ)を起こしたり、最悪の場合、足を切断せざるを得なくなることもあります。こうした足病変の原因、自己チェックの方法、予防のためのフットケアのポイントについて、杏林大学医学部形成外科教授の大浦紀彦先生にうかがいました。

早期からの足のケアが大事

 糖尿病の合併症として、目が悪くなる「糖尿病網膜症」、腎臓の機能が低下する「糖尿病腎症」などが知られていますが、「足病変」も合併症の1つで、患者数は増加の一途をたどっています。
 足病変が進行して、足の潰瘍や壊疽に至る前に、「足が傷つきやすく、治りにくい」、「靴ずれが起こりやすい」、「足が変形する」、「足指の感覚が鈍くなる」、「足が冷たい(血行不良)」といった症状や変化が見られます。
 この段階で気づき、しっかりケアをすれば、潰瘍や壊疽への進行を食い止めることができます。
 足の切断は患者の「生活の質(QOL)」を著しく低下させます。特に70~80代の高齢者の場合、1人で日常生活を送れなくなるケースも多いだけに、大浦先生は「足病変を早く見つけ、重症化しないようにケアをすることがとても大切」と注意を促します。

原因は神経障害と血流障害

 では、糖尿病患者はなぜ足病変が起こりやすいのでしょうか。その一因と考えられているのが、糖尿病によって引き起こされる「神経障害」です。
 神経障害は、血液中の高濃度の糖分が末梢の神経を傷めてしまう病気で、糖尿病の比較的早い時期(罹患後5~10年)から発症し始めます。
 「神経障害が起こると、まず手足がしびれたり、痛んだりします。さらに進行すると、感覚が鈍くなり、けが、やけど、靴ずれなどによる痛みを感じにくくなります。その結果、手当てが遅れ、感染などによって足病変が進みやすくなるのです」(大浦先生)。
 また、神経障害によって運動神経が冒されると、足の筋肉が萎縮し、足の裏が変形してつちふまずがない偏平足になったり足跡がワシ爪のような形になります。歩くとき、突出した部位に圧力が集中し負担がかかり、傷つきやすくなります。こうした足の変形も、足病変の誘因になるそうです。
 神経障害とともに、もう1つ足病変の原因となるのが「血流障害」です。糖尿病が長年にわたると、全身の血管で動脈硬化が進み、心臓では狭心症や心筋梗塞、脳では脳梗塞の引き金になります。また、足でも「末梢動脈疾患(PAD)」という病気が起こってきます。
 PADになると、足の動脈(特に膝下の動脈)の内腔が狭くなって血液が流れにくくなります。すると、足の先まで十分な量の栄養や酸素が届かなくなります。動脈硬化がさらに進んで、足先などの細い血管が完全に詰まってしまうと、そこから先の部分の組織が死んで、潰瘍や壊疽を起こします。
 「糖尿病による足病変は、神経障害を合併している患者さんに多く見られますが、そこに動脈硬化による血流障害が加わると、より重症化しやすくなるので要注意」と大浦先生は指摘します。

AAAスコアで自己チェック

 糖尿病足病変は、外傷、靴ずれ、やけどなど日常生活のちょっとしたアクシデントから始まります。とりわけリスクが高いのは、糖尿病の罹患歴が長い、神経障害を発症している、足に変形があるなどの場合です。とはいえ、自分自身が糖尿病に罹っていることに気づかず、治療を受けていない場合などは、足病変のリスクにまで思い至りません。
 そこで、大浦先生が代表理事を務める一般社団法人Act AgainstAmputation(AAA)では、医療従事者だけでなく、患者も簡単に使える、足病変リスクのスクリーニング票(AAAスコア)を作成しています(図1)。
 AAAスコアは、それぞれの項目に点数がついていて、合計7点以上なら「足病変の危険度が高く、定期的な検査が必要」と判定することができます。
 このAAAスコアでチェックすれば、自分で足の様子を確認することができなくても、足病変のリスクを評価できます。「足病変の早期発見にぜひ役立ててほしい」と大浦先生は話します。
 なおAAAは、足病変に関する情報提供、啓発活動を行っており、AAAスコアも「糖尿病ネットワーク」Webページ内に掲載しています。
 AAAスコアが7点以上だったり、足の異常に気づいたときには迷わず医療機関で検査を受けるよう指導しています。足病変は皮膚科、整形外科、形成外科、循環器科、血管外科など様々な診療領域に関わる病気です。受診するときには、かかりつけ医と相談し、上記の複数の診療科や専門クリニックと連携が取れている医療機関を選ぶようにします。
 また、糖尿病足病変やフットケアに広く対応してくれる足専門の外来を開設している医療機関があります。まだその数は多くはありませんが、先のWebページ内にある「エキスパート足外来」(http://www.dm-net.co.jp/footcare/expert/)に掲載されています。

フットケアで足病変の予防を

 糖尿病足病変の予防には、血糖のコントロールに加えて、日常的な足の健康管理「フットケア」も欠かせません。大浦先生に、そのポイントを2つ挙げていただきました。
①足を毎日観察する 足病変の多くは、足の小さな傷ややけどから起こります。それを見逃さないために、入浴時などに足の皮膚や爪に異常がないかどうかをチェックします。特に注意したいのは、靴ずれ、皮膚の傷、ウオノメ、タコなどです。また、足の形をよく観察し、変形がないかどうかも確かめます(図2)。
②毎日、足を洗い、清潔に保つ 足が汚れていたり、不潔だと、細菌が繁殖し、感染症を起こしやすくなります。洗うときは、足の裏や指の間など見えにくい部分もきれいにします。皮膚が乾燥している場合は、保湿クリームを塗ります。
 日常で注意すべき点もあります。神経障害によって足先の感覚が低下していると、入浴の際、高温の湯に足を入れてしまい、気づかないうちにやけどしてしまうことがあります。湯の温度は40度前後に調節しておきましょう。
 同様に、ホットカーペットや電気あんかなどは暖かさを感じにくくなるため、温度を高めに設定したり、長時間にわたって使用してしまいがちです。そのため、低温やけどを起こしやすくなります。
 寝たきりの状態の場合、かかとや脚の外側の骨(腓骨)が当たる部分などに褥瘡ができるリスクは糖尿病患者の方が高くなります。クッションやポジショニングピローなどを利用してかかとなどを浮かせておくと褥瘡予防になります。
 歩ける場合は、自分の足に合った靴を履くことも足を守るための大切なポイントです。靴を購入する際は、きちんと足のサイズを測ってもらい、足にピッタリしたものを選びます。大きすぎると靴の中で足が動き、擦れたり、けがをしやすくなります。また小さすぎると血液が流れにくくなります。
最近は、シューフィッターと呼ばれる靴選びの専門家がいる店もあるので、そうした方のアドバイスを受けるのもいいでしょう。さらに白い靴下を履くことも、傷を早く発見するための工夫の1つです。
 「靴選びを含めたフットケアは、糖尿病足病変の予防や早期発見のためにとても大事。足をいつまでも健康に保つために、足に興味を持って、毎日観察してほしい」と大浦先生はアドバイスします。

「けあ・ふる」は、医療や福祉の専門家向けの情報誌です。
購読を希望される方は、送付先のお客様情報を下記フォーマットにご入力ください。