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高齢者の排尿トラブルの原因と対策
情報誌けあ・ふるVOL.88(2016/7) 掲載

東京都リハビリテーション病院 副院長
鈴木 康之先生

尿の量と色をみて適量の水分摂取を

 加齢とともに、「トイレが近い」「尿漏れがある」「尿が出にくい」など、排尿のトラブルを抱える人が増えてきます。尿漏れや頻尿などのほとんどは重大な病気ではありませんが、QOL(生活の質)を大きく損ないます。一方、血尿や膿尿などは命に関わることもある病気の危険信号として注意が必要です。東京都リハビリテーション病院副院長で、泌尿器科専門医・指導医の鈴木康之先生に、高齢者の排尿トラブルの原因と対策をお聞きしました。

加齢とともに増える過活動膀胱

 40歳を過ぎたころから、頻繁に排尿したくなる頻尿や尿漏れ(尿失禁)など、排尿の悩みを持つ人が増えてきます。
 頻尿や尿失禁の原因は、膀胱が過敏になって急な尿意を覚えてしまう「過活動膀胱」や感染による「膀胱炎」、骨盤の中で内臓を支える「骨盤底筋のゆるみ」「前立腺肥大」など様々です。いずれも生活の質を低下させる要因となります。
 特に過活動膀胱は40歳以上の日本人の12・4%にみられ、加齢とともにその割合は増えていきます(図1)。過活動膀胱の症状は、①尿意切迫感(がまんできないような尿意を感じること)、②日中および夜間の頻尿(頻繁に排尿したくなること)、③切迫性尿失禁(排尿をがまんできずに尿を漏らすこと)で、このうち少なくとも①と②の症状があって、ほかに原因となり得る膀胱炎などの病気がない場合に「過活動膀胱」と診断されます。
 過活動膀胱の症状があると、たびたびトイレに行きたくなってしまうので、社会活動にも支障を来し、著しくQOL(生活の質)が損なわれます。夜間頻尿は、睡眠不足になるだけでなく、特に高齢者では転倒のリスクも大きくなります。
 鈴木先生は「過活動膀胱の最大の原因は、排尿をコントロールしている自律神経系の機能の加齢による衰えです。個人差は大きいのですが、高齢になるほど起きやすくなります。また、加齢とともに、腎機能や筋力は低下するので、身体が活動している日中は腎臓に回る血液量が減り、尿量は減る傾向にあります。その分安静にしている夜間に尿量が増え、夜間頻尿が起こりやすくなります。動脈硬化で血流が悪くなると日中の尿量減少が顕著になるので、排尿トラブルを防ぐには、糖尿病や高血圧といった動脈硬化を促進させる生活習慣病を防ぐことが大切です」と説明します。
 一方で、頻尿や尿漏れの原因が病気や身体の機能の低下ではなく、水分の摂り過ぎによることが少なくありません。この場合は、身体に悪いところはないので、特別な「治療」の必要はなく、重大な影響を及ぼすこともありません。摂取する水分を控えるだけで症状は軽快します。暑い時季は熱中症の予防のために十分な水分摂取が勧められますが、摂り過ぎにならないように注意が必要です。
 これとは逆に、水分摂取を控え過ぎ、尿量が極端に減ると、身体には様々な負担がかかります。腎臓は血液をろ過したうえで、身体に必要な成分や水分を再吸収し、残りの老廃物を尿にして膀胱に溜めます。水分摂取が少ないと、体内の水分バランスを保つために腎臓で再吸収する水分量を増やさなければならなくなり、腎臓にも大きな負担がかかります。尿は濃く少なくなり、細菌が繁殖しやすいうえ、尿量が少ないために排尿によって膀胱や尿道から細菌を排出しにくいので、感染を起こしやすくなります。さらに尿が濃くなると結石もできやすくなります。

まずは自分の排尿状態を知る

 健康な人では「喉が渇いたら水を飲む」程度が水分摂取量としてはほぼ適量とされます。ただし高齢者では「喉が渇く」感覚が衰えてくるので、水分摂取が不足しがちです。水分の摂取量が適切かどうかは、1日の尿量をみるとわかります。そのために役立つのが「排尿日誌」です。排尿のたびに出た尿の量を計り、排尿時間と排尿量、水分摂取量を記録し、1日の総尿量と総水分摂取量をみます。3〜4日記録すれば、大まかな状態が把握できます。
 「体重にもよりますが、1日に2リットル以上の尿が出るなら水分の摂り過ぎです。また1リットルより少なければ水分が不足といえるでしょう。特に寝たきりの方は、尿量が少なすぎると感染などを起こしやすいので、尿量の確認は大切です。排尿日誌をつけるには、計尿カップなどの用意も要るので、できれば泌尿器科の医師の指導のもとで記録するとよいでしょう」と鈴木先生はアドバイスします。
 尿量の多い少ない(すなわち水分摂取の多少)は、計尿カップがない場合にも、おおまかには、尿の色をみるとわかります。薬などを飲んでいないなら、うっすらと黄色いぐらいがちょうど良い尿量です。色がほとんどないほど薄い場合は尿量が多いということなので、水分摂取が多いといえます。また、尿の性状で病気がわかることもあります。血尿や濁った膿尿は特に要注意です。排尿時には、尿の色や状態もチェックします。
 鈴木先生は「痛みやかゆみなどがなくても、血尿が出るのは尿の通り道に何か異常があるということです。膀胱がん、腎臓がんなどの大きな病気が隠れている可能性があります。また、膿尿は膀胱炎などの感染症を起こしている可能性があります。いずれも、泌尿器科で精密に検査を受ける必要があります」と注意を促します。

排尿後は膀胱に尿を残さない

 排尿する際にもう一つ重要なことは、膀胱に溜まった尿を残さず出すことです。膀胱には、大きく2つの働きがあります。尿を溜める機能と尿を出す機能です。前者の機能が低下すると、前述のように膀胱が勝手に収縮してしまう過活動膀胱などになり、頻尿や尿漏れを起こします。これは生活の質の維持のためには困りますが、命に関わるわけではありません。
 一方、膀胱から尿を出せないのは大きな問題になります。膀胱に尿が残った状態が続くと、腎臓へ尿が逆流し、腎臓の機能が低下することがあるからです。感染症の原因にもなります。「尿の性状も1日の尿量も悪くないのに、腹部や排尿の際に違和感がある場合には、尿を出し切れていない可能性があります。超音波検査で排尿後の膀胱の残尿量を測るほか、腎機能の状態や感染症の有無を調べ、早期に原因を診断して処置を行う必要があります」(鈴木先生)。

排尿はできるだけ座位で

 尿を出し切るには、排尿時の体位が肝心です。通常、仰向きに寝たままではうまく排尿できません。おねしょはがまんできないほど尿が溜まっているので例外です。
 寝た状態で排尿しにくい理由は、腹圧が効果的に膀胱に作用しないからです。尿を出すとき腹圧で膀胱の収縮を助けますが、仰臥位では腹圧の方向と膀胱が尿を押し出す方向が異なります(図2)。座位なら、腹圧と尿が出る方向が同じになり、尿を出し切ることができます。
 このため、臥床がちの方は日中できるだけ離床し、座位で排尿するようにすることが大切です。トイレで排尿するのが一番ですが、トイレが使えずオムツであっても、排尿時にはベッドの背を上げたり座位をとるようにするとよりスムーズに排尿できます。オムツを使用している場合には尿路感染症を防ぐため、こまめにオムツを交換し、会陰部を常に清潔に保つことも大事です。

手足を動かし筋力アップを

 また、手足を動かし、運動機能を上げることも排尿の力をアップさせます。膀胱も手足の筋肉と同様に運動神経と知覚神経がつながっており、手足の筋肉を鍛えることで膀胱の筋肉も鍛えられるからです。脳卒中後はリハビリテーションで手足が動くようになると、排尿もしやすくなることが多いようです。
 過活動膀胱の治療薬として副交感神経の働きを抑える作用(抗コリン作用)がある医薬品が使われますが、これらの薬の作用で排尿がしづらくなっていることがあります。鈴木先生は「薬を服用していて尿が出づらい場合には、主治医や薬剤師に相談するとよいでしょう。自分でできること、介護する人ができることを考えながら、上手に排尿ケアをしてください」と話しています。

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