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膝の痛みは年のせいだけではない 早めの受診で「ロコモ」を予防
情報誌けあ・ふるVOL.87(2016/4) 掲載

横浜市立大学 医学部 整形外科 教授
齋藤 知行先生

早めの受診で「ロコモ」を予防

 中高年になると、膝の痛みを訴える人が増えてきます。その原因として圧倒的に多いのが「変形性膝関節症」です。放置しておくと、痛みが徐々に増して、日常生活にも不便をきたし、やがて自力歩行が困難になり、要介護の状態になることもあります。しかし、運動や薬物療法などで適切に治療すれば、症状を改善させたり、進行を遅らせることが可能です。横浜市立大学医学部整形外科教授の齋藤知行先生は「年のせいだからとあきらめず、早めに専門医を受診し、きちんと診察してもらうことが大切」と注意を促します。

関節軟骨がすり減って起こる

 膝の関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)、そして膝蓋骨(お皿)が組み合わさってできています。大腿骨と脛骨の端は、骨同士がぶつからないように「関節軟骨」で覆われており、骨の間には軟骨の一種である「半月板」というクッション代わりの組織もあります。また、関節の中は「関節液」で満たされていて、関節軟骨に酸素や栄養を補給しています。
 私たちは日常生活の中で、歩く、立つ、座るなどの動作をなにげなく行っていますが、それがスムーズにできるのは、膝の関節が正常に機能しているからです。しかし、重い体重を支えながらこうした動きを繰り返すのは、膝関節にとっては大きな負担となります。
 「それが長年にわたって続くと、関節軟骨や半月板が次第にすり減って変性が進みます。その過程で、すり減った軟骨のかけらが関節液に混じり、関節包の内側にある滑膜を刺激します。すると、滑膜に炎症が起こり、痛みを生じます。これが変形性膝関節症です(図)」(齋藤先生)。
 疫学調査によると、現在、変形性膝関節症で治療を受けている人は全国で約800万人、自覚症状の有無にかかわらず、X線検査の所見で変形性膝関節症と診断される人は2400万人にものぼるといいます。

中高年の女性はリスクが高い

 変形性膝関節症は単一ではなく、多くの要因が複雑に絡み合って発症します。なかでも最も大きな要因は加齢です。膝にかかる負担は長年にわたり少しずつ積み重なりますから、年をとるほど関節軟骨がすり減ったり、半月板が損傷したりしやすくなります。
 女性の場合、男性に比べて膝関節を支える筋力が弱く、関節が小さいため、膝にかかる負担が大きくなります。患者数で比べると、女性は男性の2倍といわれます。またO脚の人も要注意です。O脚は膝が外側に反った状態になっているため、関節の内側に偏って体重がかかり、その部分の軟骨がすり減りやすくなります。
 さらに、肥満、仕事での膝の酷使、激しいスポーツなども膝に過大な負担をかけます。齋藤先生は「変形性膝関節症の原因は様々ですが、中高年の女性で肥満、O脚が重なったら特に注意が必要です」とアドバイスします。

症状が出たらできるだけ早い受診を

 変形性膝関節症が進行し、軟骨がすり減ると、残念ながらそれを元に戻すことはできません。膝に少しでも違和感があれば整形外科を受診することが大事です。その際のチェックポイントは、①立ち上がったり、歩き始めたときに膝がこわばったり、痛みを感じる、②歩くと痛む、特に階段を上り下りするときに強く痛む、③膝の曲げ伸ばしがつらい、といった症状の有無です。「こうした異常に気づいたときには、できるだけ早く受診してください。『膝が痛むのは年のせい』『多少痛むけれど歩けないほどではない』と先延ばしにしていると、関節の変形や変性がどんどん進んでしまいます」(齋藤先生)。
 整形外科を受診すると、最初に行われるのが問診です。痛みの感じ方は患者さんにしかわかりませんし、医師にとってはそれが重要な診断の手がかりとなります。ですから問診の際には、症状、日常生活、持病などについて、具体的に、詳しく伝えることが正確な診断につながります(表)。

最も重要なのは運動療法

 変形性膝関節症の治療には、薬物療法や運動療法などの「保存療法」と「手術」があります。どちらを選択するかは、進行度や患者の希望にもよりますが、まずは保存療法を行うのが基本です。
 薬物療法は痛みを軽減するのが目的です。関節内で炎症が起こると、痛み物質が発生して、滑膜が刺激されてさらに炎症が進み、痛みが悪化するという悪循環に陥ります。そこで、非ステロイド抗炎症薬などの鎮痛薬で、こうした流れを断ち切ります。
 しかし、痛みを軽減するのはあくまでも対症療法です。痛みを起こさせないようにするために重要なのが運動療法です。
 運動すると、膝関節を支える筋肉が鍛えられ、膝がしっかり安定して、関節への負担が減ります。また、膝を動かすことで、血行が促され、関節液中の痛みを起こす物質が血中に吸収されて減っていきます。さらに、運動によって肥満が是正され、膝への負荷が減少します。
 齋藤先生は「動くと膝が痛む患者さんは、できるだけ運動したくないというのが本音かもしれません。しかし、筋肉は動かさないでいると、どんどんやせ衰えて萎縮していきます。また、運動不足の状態が長引くと、腰や股関節など他の部位にも悪影響を及ぼします。このように膝をはじめとする運動器の障害が進展した状態は「ロコモ」(ロコモティブシンドローム=運動器症候群)と呼ばれ、介護が必要になりやすい状態です。これを防ぐために運動療法は欠かせません。適切な運動にはすぐれた治療効果があります」と説明します。

長く続けると効果が実感できる

 運動としては、太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛える「脚上げ体操」や「ハーフスクワット」などの筋力トレーニング、関節の柔軟性を回復させるストレッチなどが有用です。たとえば、脚上げ体操は、イスに浅く腰かけて片方の足を伸ばし、ゆっくりと10センチメートルほ
ど上げ5秒間ほど静止してゆっくり下ろします。これを1回とし、20〜30回を1セットに、1日3セットぐらいを目安に行います。
 また、屋外で行う有酸素運動にはウォーキングや自転車、水泳などがあります。なかでもウォーキングは気軽に行えるので、お勧めです。平坦な道を歩くこと自体は膝にかかる負担は比較的軽微ですが、階段や坂道の昇降は負担が大きくなりますから、無理は禁物です。ウォーキングの時間は、最初は15分くらいから開始し、少しずつ時間を延ばしていくのがいいでしょう。変形性膝関節症になると、動くと痛いので家に閉じこもりがちになりますが、ウォーキングはそれを解消する上でも有効です。
 齋藤先生は「筋力トレーニングやウォーキングなどの運動療法の効果は1週間や10日で現れるものではありません。長く続けることで初めて実感できます。まずは1か月を目標に頑張ってみることが大切」と話しています。

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